旅する図鑑
2021.10.1:投稿
私が所有する図鑑『日本の海水魚』(山渓ハンディ図鑑13)
今までどれだけの距離を移動して来ただろう。
飛行機に、船に、車に乗って共に旅をした。
私が行くダイビング・ツアーには必ず同行して付いて来る。
旅の準備を始めると、この図鑑は何よりも早くスーツケースの底にある「自分の場所」に収まった。
もう10年以上の付き合いになるだろうか。
決してぞんざいな扱いをしているわけではないが、もはや表紙は外れ、あちこちがセロテープで補修され、満身創痍と言っていい。
索引にはピンク色のマーカーが、各魚のページにはブルーのマーカーが引かれている。
マーカーは写真を撮ったことがあることを示している。特に見たい魚のページには付箋も付いている。
『日本の海水魚』には日本で見られる海水魚1246種の魚が掲載されている。2008年刊行。
海水魚の研究も日進月歩。本書では同一種とされていた魚も、現在では”別種”として認定され或いは分割されたりもしている。新たに和名が付いた魚も何種類かいる。
この図鑑、読み込めば読み込む程にまた新たな事を教えてくれる。
私にとってダイビング・ライフの正に「水先案内人」である。
「一人旅」
ちょうど去年(’20)の今頃。
私と離れて、この図鑑が初めての「一人旅」をした。
行き先は屋久島のガイド・至さんの元。
「一人旅」の経緯(いきさつ)はこうだ。
一昨年(’19)、屋久島での最終日。お洒落なカフェで至さんを交えてログ付けをした。
その際、テーブルに出していた私の図鑑を至さんが手に取った。パラパラとページを捲りながら、「来年、屋久島へ来る前にこの図鑑を僕のところへ送って下さい。調べておきます」と言った。(座っていた椅子から1m位飛び上がるほど嬉しかった!)
そんな有難い至さんの言葉を、私が忘れる訳はない。
例年、屋久島ツアーの引率をしてくれるインストラクターのマサさん。
はたから見ていると、至さんとマサさんの間にはちょっと羨ましいような海の男同志の”絆”があるように映る。
私は単なる1ゲスト。至さんの有難い申し出のベースには二人の関係性があってこそ。
図鑑の「一人旅」の経緯と計画をマサさんに相談した。
結果、マサさんの手で図鑑は至さんの元へと暖かく送り出された。
気楽な一人旅とは趣が異なる。それは重要な任務を帯びての「先乗り出張」。
至さんへ「今まで撮った魚と、撮ったことの無い魚」の情報をしっかりと伝えるのが、授けられた”特命”だった。
図鑑から遅れること約1週間。屋久島に到着すると、至さんは「リスト」を作ってくれていた。
屋久島の海を知り尽くした至さん。図鑑のマーカーが無い魚で且つ屋久島に生息している魚のリストだ。こんな贅沢なリストが他にあるだろうか?
この年の屋久島の海は大忙しだった。
ミズタマハゼ、ツバメクサハゼ、ベニヒレイトヒキベラ、ニシキカワハギ、カスミオイランヨウジ、スジブダイ、アミメブダイ、タイワンブダイ、ツキノワブダイ、幻のブダイ・シジュウカラ、ハゲヒラベラ、べラギンポsp、カマスベラ、クモウツボ、、、、他etc。
my新種の大漁。大漁旗を打ち振って母港?東京へ図鑑と共に凱旋した。
昨年、秋の一日。ピンクとブルーのマーカーを持って図鑑に新たな線を引いた。幸せをかみ締めながら。
「時代の波」は私と図鑑の間にも押し寄せてきている。
この図鑑のデジタル版が私のスマートフォンにインストールされた。荷物を軽くするにはかなり有効ではある。
しかしこのアプリ、マーカーが引けない(タグを付けられない)など紙の図鑑の使い勝手には及ばない点が多々ある。
そのため、自宅では今も使い慣れた紙の図鑑が大活躍している。
この使いすぎてやや疲れ気味の「図鑑」。
これからもダイビング・ツアーへ同行すべきか、留守番をさせるべきか? 悩ましい。
私にとって「ダイビング人生」の伴侶とも言えるこの図鑑。
もう少しの間一緒に旅をしてもらおうと、今心に決めた。
節子
2021.10.08
18:12
マサさんコメントありがとう!
「お互いがその存在をいつもどこでもかんじあっている」
最高の関係!
「旅する木」「旅する図鑑」
分かる人には分かる、ちょっとした仕掛け?遊び心?です 笑
まさ
2021.10.08
11:54
何万冊と印刷された図鑑の中で
こんなに旅をして、こんなに擦り切れて、物語になって、頼りにされて、
如何ほどの幸せをかみしめてることでしょうか。
せっちゃんと一緒にいる図鑑には魂が宿り、無機物ではなくなっているように感じます。
持ち歩かなくても持ち歩いても、お互いがその存在をいつもどこでも感じあっている。
ちなみに、
僕といたる氏の関係もそんな感じ。
と、僕は思っているのですが・・・。(笑)