シモフリタナバタウオ
スズキ目タナバタウオ科
2021.3.20:投稿
3月18日 日本経済新聞(朝刊) 「トヨタ・日産満額回答」の見出しが1面の中段にあった。
前日17日が2021年の春季労使交渉の集中回答日だった。「新型コロナウイルス下でも業績を持ち直す動きもありつつ、ベースアップの要求を見送った労組もあり、労使双方共に慎重な姿勢」と書かれている。
今どきは「春季労使交渉」というのかと記事を読みながら改めて思った。昭和の高度経済成長期は「春闘」と呼ばれていた。「交渉」と「闘い」微妙なニュアンスの違いがそこにはあるように感じる。
春闘では経営者側と労組による「賃金のベースアップやボーナス」「労働時間その他の待遇」をめぐる交渉が行われた。その交渉の行方はTVニュースでも大きく取り上げられた。
学生時代の私は、とりわけ国鉄(現JR各社)や私鉄各社の春闘のニュースには特別な関心を寄せていた。
何故なら、労使間交渉の合意が不調に終わると、ストライキに突入することもしばしばあり、交通機関がストップすれば学校が臨時休校になるからだ。テストがなくなり、宿題や予習をする必要もないことを期待する怠け者だったから。
当時はネット情報など有る訳もなく、TVが放送時間を延長して深夜まで随時交渉の行方を速報していた。私は「スト突入→臨時休校」という希望的観測だけを支えに、何もせずTVに噛り付いて夜明けを迎えた。
始発時間の少し前に、突然アナウンサーが「社会への大きな影響を避ける為、労使が合意しました。ストライキは回避されました」とのニュースを伝える。それを聞いた途端に、私は急に睡魔に襲われ、私にとっては”大きな影響”に直撃され、悲惨な身の上となった。こうした経緯は、学習されることもなく懲りることもなく幾度も繰り返された。
それでも春闘は、臨時休校になるかもというワクワク感を私に与えてくれた。
ところが場合によっては、労組側の要求を経営側が全面的に受け入れる「一発回答」で春闘が簡単にあっさり終わってしまうこともあった。冒頭の新聞記事の見出しも「満額一発回答」ということだろうか。
この夢も希望も味気も無い「一発回答」 10代の頃の私は大嫌いだった。
海の『一発回答』
2011年秋「3泊4日 沖縄(恩納村・万座)を潜り倒す」というツアーに参加した。
半年振りに再会したムラさんは、私の顔を見るなり「図鑑ですねっ」と言った。Green Grassの砂利が敷かれた駐車場でのこと。
海の生物ネタも陸の話のネタにも事欠かない楽しいツアー、いよいよ海の最終日。
朝一番「お店のブログを見たんだけど、シモフリタナバタウオって魚今もいる?見たいんだけど、、、」と遠慮がちに言ってみた。ムラさんの反応は「ん〜どうかなぁ〜 探してみますネ!」と余り自信がある風情ではなかった。最終日に潜る何本かの海で運良く会えればと淡い期待を抱いた。
”潜り倒す”と鼻息が荒い私達は、海の最終日1本目は朝7時過ぎにはもうエントリーしていた。オウゴンニジギンポや海面表層のグルクマの群れなどを見て30分位が経過した時、ムラさんがライトをクルクル回して呼んでいる。急行すると、岩陰に初めて見るシモフリタナバタウオがいた。本当に驚いた。
ムラさんからの「一発回答」
リクエストしたその直後の海で見せて貰えるとは想像だにしなかった。
海の「一発回答」は最高だ〜!!! 大好きだ〜!
写真は一発回答のシモフリタナバタウオ!
因みに、2011年のこのツアー、到着日に2本、中日4本、海の最終日5本の計11本。これだけ潜れば「潜り倒した」と豪語しても良いだろう。飛行機に搭乗する日は、沖縄の地元スーパーを踏破?したのだった(ここは言い過ぎ)
注)ムラさんはインストラクター。東京のオーシャンにいた頃からずーっとお世話になっている。その後沖縄の恩納村でオープンしたGreenGrassの店長。カスザメやアケボノハゼ、ヤシャハゼ等、ムラさんに見せてもらった生き物は多数。
データ詳細
撮影日
2011.09.24 #236
撮影ポイント
沖縄県 真栄田 もぐりん
使用機材
Olympus XZ-1
この個体は未だ若魚と思われる。比較的小さなシモフリタナバタウオだった。
日本での分布域は八丈島、和歌山県串本、琉球列島。
サンゴ礁域の礁池やサンゴの下、あるいは岩棚の下など暗がりに単独で生息する。夜行性。
シモフリタナバタウオは、なかなかユニークな魚だと思う。
各鰭も含めて全身に白色及び青色の小点が散在する。これが名前の「霜降り」の由来であろう。
体の大きさに対して背鰭、腹鰭、臀鰭、尾鰭が非常に大きい。
(参考写真:青色のラインで囲ったところが体。あとは鰭)
そして本来の眼はほとんど目立たない。その反面、大きな眼状斑はかなり目立つ。背鰭後半にある。
眼状斑についてはまた時と場所を移して書いていきたいが、、、。
敵からの攻撃から急所(眼や内臓)を外し、背鰭後方に眼状斑があることによって進む方向(目の位置で進む方向を判断される)を敵に対して欺くことができる。
頭を穴に隠して、尾鰭をヒラヒラ出しているのはハナビラウツボに擬態しているとの説がある。
因みに、シモフリタナバタウオは全てムラさんに沖縄で見せてもらったものばかり。
参考写真(2019.10 裏山田)の個体を私に紹介してくれた時、ムラさんのスレートには「僕たちの思い出の魚!!」と書かれていた。
私の頭の中でシモフリタナバタウオは、もはや『スズキ目タナバタウオ科カワムラタケシ属』である。
データ詳細
撮影日
2016.06.01 #555
撮影ポイント
沖縄本島 万座 ホーシュー
使用機材
Olympus OM-D E-M5 MarkⅡ (M.60mm F2.8 Macro)